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Ⅵ【ファウスト】第47話
「東京を焼くな」
人々が築き上げた街なんだ。
想いのかたちなんだ。
建物に、風景に、思い出を宿してるんだ。……もう会えなくなってしまった人との思い出だって、そこにあるんだよ。
その場所に行けば、会えなくなった人と気持ちだって通じ合わせる事ができるんだよ。きっと……
想いを壊す権限は、あなたにはない。
想いを跡形もなく破壊する兵器《トリスタン》は、人の魂を滅ぼす。
俺は、この国が嫌いだ。
日本が大嫌いだ。
しかし
「絶望を止めるぞ」
救世主になるつもりはない。
俺は、銀の叛逆者
破壊の創造主だ。
この国を壊す。
破壊するのは、この国の構造だ。
搾取され続ける差別社会だ。
新日本国にαは要らない。
だがαの都市だからといって、文化を否定はしない。
………………ハルオミさん
「あなたは俺の家族であり、最大の敵だ」
「ナツキ。君は妻であり、私の最大の敵だよ」
《トリスタン》を………
「止める」
「撃つ」
(俺は最期までシルバーリベリオンで在り続ける)
(シルバーリベリオンを消さなければ、日本に未来はない)
(新日本国を建国する。既存の価値は破壊される)
(日本国は在り続ける。日本は既存の国家のまま生まれ変わる。
私の手によって!)
「国家は国民のものだ。壊させないよ」
「違う!人の想いを見ないあなたが語るのは、あなたのための国家だ」
「同じだよ。私腹を肥やし、国政を放棄した政治家にこの国が滅ぼされるのを見過ごす程、私は優しくないんだ。
国民は支持するよ。《トリスタン》投下はやむを得ない、と」
「……正しい事はしないのか」
『やむを得ない』は消極的選択だ。
「正しい選択はできないのか」
「《トリスタン》が正義を示したと、後世の歴史が証明するだろう」
俺達は………
私達は………
日本を変える事を目指しながら、交わる事はないんだ。
俺達の心は平行線を辿り続ける。
「日本をつくるのは私だよ」
「俺が壊す」
俺達が望むのは、あなたの君臨する国家じゃない。
「行くよ、ナツキ!」
手を引かれるままに駆け出した。
「《トリスタン》を止めるんだろ!ついてきて」
「アキヒト、来いッ」
「はい!」
固く結ばれた手は離れない。
離さない。
「ユキト……」
こんな時に言うのもなんだけど……
「……好きだ」
「えっ」
ユキト、なんて言った?
「またナツキに伝えたくなっちゃった。ごめんね」
緩く首を振った。
何度でも伝えてほしい。
俺もユキトに伝えたい、同じ想いだから。
「Verfolge nicht !」
銃を構えたα兵を紺碧の視線が制した。
「戻ってくるさ……彼は、私を家族だと言ったんだからね」
遠ざかる背中を瞳が追う。
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