189 / 288

Ⅵ【ファウスト】第47話

「東京を焼くな」 人々が築き上げた街なんだ。 想いのかたちなんだ。 建物に、風景に、思い出を宿してるんだ。……もう会えなくなってしまった人との思い出だって、そこにあるんだよ。 その場所に行けば、会えなくなった人と気持ちだって通じ合わせる事ができるんだよ。きっと…… 想いを壊す権限は、あなたにはない。 想いを跡形もなく破壊する兵器《トリスタン》は、人の魂を滅ぼす。 俺は、この国が嫌いだ。 日本が大嫌いだ。 しかし 「絶望を止めるぞ」 救世主になるつもりはない。 俺は、銀の叛逆者(シルバーリベリオン) 破壊の創造主だ。 この国を壊す。 破壊するのは、この国の構造だ。 搾取され続ける差別社会だ。 新日本国にαは要らない。 だがαの都市だからといって、文化を否定はしない。 ………………ハルオミさん 「あなたは俺の家族であり、最大の敵だ」 「ナツキ。君は妻であり、私の最大の敵だよ」 《トリスタン》を……… 「止める」 「撃つ」 (俺は最期までシルバーリベリオンで在り続ける) (シルバーリベリオンを消さなければ、日本に未来はない) (新日本国を建国する。既存の価値は破壊される) (日本国は在り続ける。日本は既存の国家のまま生まれ変わる。 私の手によって!) 「国家は国民のものだ。壊させないよ」 「違う!人の想いを見ないあなたが語るのは、あなたのための国家だ」 「同じだよ。私腹を肥やし、国政を放棄した政治家にこの国が滅ぼされるのを見過ごす程、私は優しくないんだ。 国民は支持するよ。《トリスタン》投下はやむを得ない、と」 「……正しい事はしないのか」 『やむを得ない』は消極的選択だ。 「正しい選択はできないのか」 「《トリスタン》が正義を示したと、後世の歴史が証明するだろう」 俺達は……… 私達は……… 日本を変える事を目指しながら、交わる事はないんだ。 俺達の心は平行線を辿り続ける。 「日本をつくるのは私だよ」 「俺が壊す」 俺達が望むのは、あなたの君臨する国家じゃない。 「行くよ、ナツキ!」 手を引かれるままに駆け出した。 「《トリスタン》を止めるんだろ!ついてきて」 「アキヒト、来いッ」 「はい!」 固く結ばれた手は離れない。 離さない。 「ユキト……」 こんな時に言うのもなんだけど…… 「……好きだ」 「えっ」 ユキト、なんて言った? 「またナツキに伝えたくなっちゃった。ごめんね」 緩く首を振った。 何度でも伝えてほしい。 俺もユキトに伝えたい、同じ想いだから。 「Verfolge nicht(フェアフォルゲ ニヒトゥ〈追うな〉)!」 銃を構えたα兵を紺碧の視線が制した。 「戻ってくるさ……彼は、私を家族だと言ったんだからね」 遠ざかる背中を瞳が追う。

ともだちにシェアしよう!