194 / 288
Ⅵ【ファウスト】第48話
「通信室は兄上に押さえられている。こっちだ」
「ユキトっ、どこへ?」
「《トリスタン》を止めるんだろ。投下命令を中止できるのは、あの人だけだ」
そうか!
内閣副総理に命令できる人物
「内閣総理大臣か」
「オオキ首相に交渉する。彼は穏健派だ。《トリスタン》投下には反対する筈だ。首相は都民と共に、地下シェルターに避難している」
「しかし」
後ろを走るアキヒトが怪訝な声音を紡ぐ。
「マルクの通信は管理されているんだろう。無線が使えても、通信室が妨害を図るのではないか」
「あるんだよ」
通信室の妨害を受ける事のない……
「独立した無線が、マルクにたった一つ」
ギギギギギィィィー
軋んだ音を立ててシャッターが上がっていく。
格納庫 No.5 特Aサークル
「これは……」
ユキトの照らしたライトに光った銀翼
「政府専用機」
銀の翼に描かれた真紅の旭日が燃えている。
「兄上が乗ってきた機体だ。政府専用機の無線なら」
「そうか!通信室の管理を受けない」
「マルクにおいて唯一、独立した無線だよ」
「繋げるか?」
「やってみるよ」
機内は想像以上に広い。
俺達三人が乗っても余りある十分な空間だ。
「おい、早くしろ」
アキヒトが痺れを切らす。
画面は依然、灰色のノイズが走っている。
「……シャットアウトされている」
「どういう事だ」
「傍受されて、オオキ首相らの居所が探知されるのを防ぐためのセキュリティが働いている。政府専用機の無線でも、官邸側の無線が受け付けない」
「セキュリティを解く方法は?」
「コードが必要だ。だがコードを知るのは上層部のみ。マルクでは……兄上だけだ」
「つまり……」
バンッ
パネルを叩いた。
「《トリスタン》投下中止命令を首相から得られない、という事かッ!」
色のない画面が灰色のノイズを奏で続ける。
「諦めましょう、統帥。αの都市です。俺達が深入りする話ではありません」
「……それでいいのか」
「統帥?」
「東京は、いずれ俺達の物になる街だ。《トリスタン》で焼かれた街が、お前は欲しいか」
「ですがッ」
《トリスタン》を許せば、日本の独裁が始まる。
シキ ハルオミが、日本国の頂点に君臨する。
それは俺の『死』だ。
シルバーリベリオンの存在は葬り去られ、Ω解放軍は瓦解する。
(《トリスタン》は撃たせない!)
だが、どうやって?
無線が繋がらない。
首相の投下中止命令が得られない今、どうすればッ
……《トリスタン》が止められない。
まだだ……
まだ……
諦めるのは、まだだ。
俺はシルバーリベリオン
策を持って《トリスタン》を止める。
俺は生きる!
「アキヒト!アレは持ってきているな」
「はい。ですが、どうしたんですか」
「ユキト、無線を通信室に繋げ。発信源が政府専用機と分からぬように。不明コード00O だ」
「分かった」
「受信済みの画像は拾えるか。俺が合図したら合成して欲しい」
「……ナツキ?なにをしようとしてるんだ」
フッ……と。
口角を持ち上げた。
「止めるんだよ、《トリスタン》を」
「だけどっ。無線は官邸に繋がらない。首相の中止命令はないんだぞ」
「……そんなものは要らないよ」
「……一体、どうしたんだ」
揺れる黒瞳に問いかける。
「分からないか、ユキト。《トリスタン》を止めるには、副総理と交渉すればいいんだよ」
「兄上は説得を受け入れない。それはナツキだって」
「交渉のテーブルにつくのは、俺じゃない」
俺ではなく………
「銀の叛逆者 だ」
「お前、まさか……」
「そうだよ!ユキト!」
俺が、仮面の男になる。
「本物のシルバーリベリオンが、偽者のシルバーリベリオンを演じるのさ!」
食いつけ、ハルオミ
俺の撒き餌に食いついて来いよ……
……ククッ
もうすぐだよ。
食いついた時こそ、お前の策略は崩壊する。
今、お前が立っているのは砂上の楼閣だ。
フハハハハー
(指し返すぞ)
チェックメイトをかけてやるよ。
お前の存在に
黒の支配者
「勝つのは俺だ」
銀の仮面をまとう。
再び、俺は……
戻る。
思考という盤上の戦場に
銀 と 黒
きっと……
夫婦の絆よりも固いのだろう。
戦場の縁 とは
俺は、銀の叛逆者なんだ……
お前の最大の敵として、立ち塞がってやろう。
黒の支配者
俺の家族だった人………
ともだちにシェアしよう!