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Ⅵ【ファウスト】第49話

アキヒトから受け取った銀の仮面をまとう。 我が名は、シルバーリベリオン 「統帥。準備完了です」 「マルク通信室に繋ぐよ」 灰色のノイズが落ちる。 正面のモニター画像が「clear(クリア)」に切り替わった。 「マルク諸君、名乗るまでもないな?」 『シルバーリベリオンッ!』 画面に映ったα兵が声を上げた。 「シキ ハルオミを出せ。これは交渉ではない。通告だ」 『我々はテロリストと対等の交渉はしない。話は私が聞こう』 「お前は理解していない。交渉ではない。通告だと言っただろう。……残念だよ」 パチンッ 指を鳴らした。 ユキトへの合図だ。 合成された背景のカーテンがなびいた。 白いレースのカーテンの向こうに見えた景色は…… 「東京を焼く」 爆破された国会議事堂 かつての議会制 民主主義の象徴は破壊され、噴き飛んだ瓦礫の山と、焼け焦げた黒い土だけがそこにある。 『我々はテロリズムに屈しない』 「αのキレイゴトだな」 『なにッ』 「屈するかどうかを問うているのではない。シキ ハルオミを出せと言っている。これは選択肢だ。 東京を守る英雄になるか、人命を顧みず愚かな教唆に囚われた悪魔になるか……」 『どういう事だ』 「首都 東京は我々が占拠した。東京はΩの領土になったんだよ」 『馬鹿な話だ』 「そうかな?」 頬杖をついて、クッと口許を持ち上げた。 画面のα兵に逡巡が走ったのを見逃さない。 「政府要人、各国大使・領事、都民が我が手中にある。 東京地下シェルターの位置は把握済みだ。 ……お前には、全都民の命を秤にかけて俺を滅ぼす覚悟があるか?」 α兵の表層がみるみる青ざめていく。 さぁ、出てこい。 この艦で覚悟を持っているのは、あの男だけだ。 命よりも重い覚悟を背負う、最大の敵 「……オオキ首相を殺そうか」 『待て!副総理に指示を仰ぐッ』 「指示?お前では話にならないよ。お前の判断が首相を殺した……」 『待てッ!待ってくれッ!』 『私の部下を余り虐めないでくれないか』 画面が吊り上がった形良い唇を映した。 蒼く深いサファイアの瞳 (来たか) ……待っていたよ。 『初めまして。内閣副総理大臣 シキ ハルオミだ』 口許に置いた手が払われた時、口角に刻まれた笑みが消えた。

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