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Ⅵ【ファウスト】第50話

「お前と顔を合わせるのは二回目だが?」 『テロリストの顔は、いちいち覚えていなくてね。……どうせ君は死ぬんだ』 「言ってくれるじゃないか」 『命乞いなら聞いてやろう』 「お前が俺に平伏せよ。結果的に俺が生きる事になる。実に愉快な命乞いだ」 『……言ってくれるねぇ』 「茶番だよ」 読めない男だ。 ハルオミさん…… あなたは…… どんなに腹を探ろうとも、底が知れない。 深海の瞳 気を抜けば引きずられ、飲み込まれる。 『君に首相を殺せるのかい?』 「配下が潜伏している。お前の返答に首相、大臣の命がかかっている」 『ほぅ……』 「大使を見殺しにしたとなっては、国際問題に発展しかねないな」 『殺害を可能にする根拠は?』 「政府要人の地下シェルターを把握している」 『曖昧だな。把握している証拠がない。根拠とは言えないね』 「手の内はさらさないよ。貴様の返答次第だ。こちらには、いつでも殺せる用意がある」 どう出る…… ハルオミさん…… 『要求はなんだ?』 (来た!) 「シキ ハルオミ。お前だ」 『……私?』 怪訝に視線を細めた。 『《トリスタン》ではないのか』 本物の仮面の男は《トリスタン》を欲している。 《トリスタン》廃棄を条件に出したいところだが、もしも仮面の男が再び要求を携えて犯行を起こしたら…… 後々面倒になる。 そうなるよりは…… 「シキ ハルオミ。お前が一人で東京に来い。一対一で話をつけよう」 『場所は?』 「東京スカイツリー」 底のない深海の闇がモニターの中で、俺を映している。 『テロリストの言葉を信じろ……と?』 「信じなければ、日本は諸外国から批難を受ける。各国大使が全員死ねば、日本は世界を敵に回す事になるだろう」 『………おかしいね』 「俺の言葉に間違いがあるか?」 『君が、だよ』 俺が…………だと。 『君が人質にしたのは、首相・大臣・大使ではない。 君は、世界を人質にした』 世界を敵に回したのは、君だ。 『君はなぜ日本に執着する?ただのテロ行為なら破壊だけすればいい。世界中の批難を受けて、世界を敵に回す覚悟なんて持たない方が楽だ』 まるで………… 『君は…………』 唇が微かに開いた。 動きかけた声は言葉にせず、喉の奥に飲み込む。 『銀の叛逆者(シルバーリベリオン)だ』 君は、なぜ? 『私の前に現れたんだ?』

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