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Ⅵ【ファウスト】第51話

その質問に答えはない。 求めてはならない。 求めるな! 俺は銀の叛逆者(シルバーリベリオン)で在り続ける。 この戦争が終わるまで、銀の仮面は外せないんだ…… 「俺が聞きたいのは返答だ。……来るのか、来ないのか」 一秒の沈黙が重い。 静寂が胸に石のように落ちてくる。 しんしんと積もる…… 『行かないという返事はない』 不自然に手が口許を覆った。 …………………………俺は、 見てしまった。 手が遮る寸前、象った唇の形を……… …………『ナ』 あなたの唇は、そう言った。 …………『ナツキ』 あなたは手の中で、俺の名前を呼んだんだ……… 『君の招待を受けない選択肢はない』 埋まらない溝 すれ違う想い…… 「よくぞテロリストの言葉を信じてくれた。これは、お前と俺の一対一のデートだ」 『恐らく、最後のね……』 秒針が一秒進む度、俺達は別れに向かって歩いている。 『本艦は間もなく駿河湾に入る。沼津港に着港でき次第向かう。君を待たせる事になるが、構わないかい?』 「待つよ。お前を待つ時間など、苦にも思わないさ」 会えばもう、俺はお前の妻でなくなる…… あなたは夫でなくなる。 さようなら、ハルオミさん……… 日本を戦禍に落とした戦争犯罪者を妻にしたあなたは、哀しいね…… あなたは日本国 副総理だ。 俺達夫婦の辿り着く先は、見えてしまった。 政治家と戦犯 相容れない歯車だったんだよ。 どれだけキスしたってさ…… 俺達はすれ違い続ける。 左胸がトクトク奏でる心音は、訣別への足音だ………

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