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Ⅵ【ファウスト】第57.5話 (おまけ+)30

《おまけ+》 - Romantsch(ロマンティッシュ) hört(ホルト) nicht(ニヒトゥ) auf(アウフ). 〔ロマンチックが止まらない〕30 - 床で薄く光るのは、T字カミソリの刃だ。 『すまなかったね』 モニターから声が神妙に響いた。 『君の気持ちも考えず、無理強いしてしまった。私は君を傷つけてしまったね』 沈んだ声音に顔を上げた時、俺を見つめるサファイアの瞳が憂いを帯びた。 「そんなっ、俺っ」 『私は君の夫失格だ』 モニターが映す蒼玉に胸が締めつけられる。 「気にしてない」 『君は……私を許してくれるのかい?』 「許すも許さないもないよ。俺は最初から、なんにも気にしてないぞ」 『そう…か。私はこれからも、君の夫でいていいのかな』 蒼い眼差しが揺れた。 こくり…… 頷いて、首を上げた視線はたちまち紺碧の海の中へ絡め取られた。 深い深い、海の底に引き込む色彩の蒼に捕らわれている。 『ありがとう、ナツキ。君の夫で、私は幸せだよ』 そんなふうに思ってくれてたなんて…… 『私が幸せである以上に、君を幸せにするよ。必ず……』 「俺もっ」 俺も、あなたを。 「幸せにしたい!」 ハルオミさん。 『……もう十分、幸せなのに。嬉しい事を言ってくれるね。じゃあ、君のお言葉に甘えようかな?』 「あぁ!いっぱい甘えてくれ」 ハルオミさんに甘えてもらえるの、いつもじゃない展開で、ドキドキしてちょっと嬉しいかも。 『それじゃあ、T字カミソリを引き出しにしまってくれるかい。床に落ちたままでは危ないし、君の手にする物じゃなかったよ』 「分かった」 俺を悩ませたT字カミソリ、さようなら。 引き出しに入れたT字カミソリは、もう二度と人目に触れる事はないだろう。 『あとナツキ。引き出しにクリームがあるね。それを塗るんだよ』 「あ、これ。……でも、怪我してないぞ」 T字カミソリで指を切ってないか。ハルオミさん、心配してるんだな。 でも俺、怪我してない。 ハルオミさんを安心させるため、一応見せとくか。 「ほら」 モニターに向かって、両手をパッと広げた。 『塗るのは君の股ぐらだよ』 ……………… ……………… ……………… 「は?」 股間にクリーム……… 『シェービングクリームをすっかり失念していたよ。クリームなしでアソコの剃毛をしようとしてたなんて。 一口サイズの可愛いバナナの生えた君の陰部に傷がついていたら……と思うと、ゾッとするよ。 《リトル・トリスタン》が無事で、本当に良かった』 ジャイアント・キャベンディッシュを、リトル言うなー! 『皮は剥かなくて大丈夫だよ。皮被りのままで問題なく、剃毛できるからねぇ』 問題ありだわー! 「俺はボーボーのままでいいんだァァッ!」 『良くないよ!』 「なぜっ」 『よくご覧!』 「………!!」 小さな布地がパンパンだ。 黒ブーメランの前が張って、パッツンパッツンになっている。 原因はもちろん、布の下の太い幹が成長して押し上げているからで~ 『甘いよ、君は。原因を探るならば、目に見える物理的事象だけに捕らわれていてはダメだ。 物理的事象を引き起こす心理的要因を把握する……』 私が、シュヴァルツ カイザーと呼ばれる所以(ゆえん)だよ。 『私の《トリスタン》は、君の剃毛を妄想して臨戦態勢に入ったんだよ!』 「やかましいわっ!んなもん、心理を把握するまでもなく一目瞭然だわっ!」 『では話が早い。私の《トリスタン》が臨界に達する前に投下するよ。投下座標は、君のつぶらなオスマンコだ!』 「誰が、つぶらな…オスっ~~★@※だァァッ!」 『ガバガバじゃないだろう!』 「当たり前だァー!」 『締まって私を離さない君の雌ゲイマンコが、私好みのドストライクだよ』 「あなたのドストライクなんか知らんわーッ!!」 ハァハァハァハァ 思考を己がテリトリーに引きずり込む策略の辣腕(らつわん)は、人智を遥かに凌駕する。 なんて恐ろしい執着なんだ。 まさに『シュヴァンツ カイザー』の名に相応しい戦いだ。 『君は可愛いね……』 俺が? あなたに逆らい続ける俺を、あなたは可愛いと言うのか。 『一口サイズのカチカチ氷バナナから、がまん汁が垂れて陰毛がグチョグチョだよ。 シェービングクリームを塗る必要も、なくなってしまったね』 「ヒアァァァー!」 なんでーッ なぜ俺の股間は濡れてるんだーッ??! 『素直じゃない君の口に代わって、フル勃起バナナSサイズが語ってくれてるんだよ。 私の《トリスタン》が欲しい……ってね』 余分なもん付いたな。 Sサイズ、余分だろ。 ……なぜ萎えない? ……ムスコよ、なぜ…ふるぼっ…き~……してる? 『私はシュヴァンツ カイザーだ。物理的事象のみに捕らわれはしない』 ……『シュヴァンツ カイザー』自称したな。 『君は間違いなく興奮している。その心理的要因は簡単だ。 君が、ドスケベ変態ド淫乱だからだよ』 「イヤァァァ~ッ!!」 萎えてーっ 俺のバナナー♠ 〈切なさは(フー)止まらない〉

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