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Ⅵ【ファウスト】第59話

「だがっ」 俺は声を詰まらせた。 《タンホイザー》はα専用機。アキヒトはβだ。 「政府専用機は戦闘機ではありません。不測の事態が起きた時、統帥と同乗していたのでは戦力になりません」 「だが《タンホイザー》には、感応性の問題がある」 α専用機に搭乗するβのアキヒトへの身体と精神への負荷は計り知れない。 「操縦はできます。いざとなれば……」 クラリ 体が浮遊感に包まれた。 腕を引っ張られた次の瞬間、俺の額……厚い胸板に押し当てられている。 熱い体温で俺を包む両腕 「アキヒト……」 騎士の腕の中に、俺はいる。 「敵機は全て俺が落とします。《ローエングリン》であっても、あなたの覇道を阻むのなら俺が」 伏せた視線を持ち上げた。 琥珀の眼がブラックダイヤを射貫く。 「α、俺を《タンホイザー》格納庫に案内しろ」 「躾の悪いβだな。お願いもできないのか」 「お願いするのは、お前だろ。《タンホイザー》に乗ってくださいって。 俺の操縦技能と戦闘センスを侮っている訳じゃないんだろ?」 「……認めたくないけどね」 黒瞳の奥で光が舌打ちした。 「案内してやる。まずは手を離せ。 俺の奥さんの手を握っていたのでは、格納庫に案内できない」 「お前の奥さんの手なんか、最初から握っていない。……統帥、また後で。 俺の嫁、愛してますよ」 チュッ 額に口づけして、右手がほどけた。 「第三格納庫に《タンホイザー 初号機》がある。旧式だが、最新型よりも感応の同調が低い。βでも操縦し易い筈だ」 アキヒトが頷く。 琥珀の双玉は、パイロットの目をしている。 「獲物は?」 「サーベル二対、ショットガン、ショルダーパックからのミサイル弾が主となる武器だ。 機動の性能は、瞬発力はあるが持久力は劣る。気をつけろ」 「了解した。近距離戦特化ジェネラルだな」 「理解が早くて助かる。お前なら使いこなせるだろう」 「αでも乗れるんだ。容易いさ」 琥珀に挑戦的な笑みを浮かべた。 「足手まといになるなよ。行くぞ」 「あぁ」 「ナツキも気をつけて」 「俺がお守りします。安心してください」 「ユキト、アキヒト。お前達も」 ブラックダイヤの玲瓏が頷いた。 アキヒトが手を掲げて敬礼する。 タッタッタッタッタッ 背中が小さくなっていく。足音が遠ざかる。 マルク浮上まで30秒を切った。 「フェイズ スタンバイ。イグニッション ON」 パネルの淡い光が、コクピットを照らす。 「ウィングレット OK、クライム カウントダウン」 操作パネルを指先が滑る。 機体は首都に向けて飛ぶ。 目的地は、東京スカイツリー 東京で……… あなたを止める。 あなたが東京に落とそうとしている《トリスタン》は、俺が止めるよ。 マルクが浮上すれば、あなたは起爆スイッチを押すだろう。 《トリスタン》が起動して、東京に投下されるまで10分 機体の移動時間を考えると、東京スカイツリーからマルクに無線が繋がるのは、投下まで残り数分…… テロ組織が占拠する首都からの回線ともなれば、状況によっては、投下まで1分もないかも知れない。 それでも。 残された時間で、あなたを止める。 《トリスタン》は投下させない。 シルバーリベリオンが、シュヴァルツ カイザーの覇道を阻む。 格納ハッチが開いた。 目前に迫る青い波 ズンッと思い振動が体躯に走る。 マルクが駿河湾に海上に出た。 「シキ ナツキ、飛ぶぞ」 白い波飛沫(なみしぶき)が散った。 銀翼が蒼穹に駈ける。 ………………刹那 スドオォンッ!! 鈍い奇声が轟いた。 明けの明星を残した東の空 ……とは逆の西から。 鋼鉄の咆哮が燃えた。 艦艇が炎上する。 「なにがッ」 青い波間にそびえる鋼鉄の艦が、紅蓮の炎を噴き上げた。 「なにが起こったんだァァーッ」

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