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Ⅵ【ファウスト】第72話
指が青い輝きに触れた。
操作パネルが感応する。
機体が振動した。
金属音が弾ける。
体が浮遊感から抜け出した。
海に着水する寸前で、機体が止まっている。
新たな振動が震撼する。
目覚めた火の息吹が、白波を吹き飛ばした。
「……エンジンが作動している」
予備エンジンが切り離された筈なのに。
これは、どういう事だ?
『君のパイロットデータを採取した。君が、その機体を操縦している間にね』
答えになってない。
けれど、応えは核心に近づいている。
俺は確信している。
あなたはモニターの向こう側で、勝利の方程式を編んでいた。
俺に姿を見せる前から、ずっと……
そうなんだろう。
『正解だよ』
サファイアをすぅっと細める。
『君の目は、私の目だ。君の組み立てた戦術の方程式を、勝利へ導こうじゃないか。そのための時間は充分だったよ』
言っただろう……
『君を迎えに来たんだ。遅刻はしていないよ』
唇がさやけく微笑む。
『君はもう、私の中にいる。私が君を包んでいる。
君はもう、シュヴァルツ カイザーの勝利の方程式の中だ。
私が君を守っているんだよ』
モニターの中の指がパネルに触れた瞬間、機体操作パネルから円筒状の機器が立ち上がった。
蒼瞳に促されるまま、右手を置く。
『静脈認証、確認
パイロットデータ、インストール
Fertig los .』
操作パネルが輝く。
共鳴している。
機械音がひしめく。
体幹に衝撃が駆けた。
海がうねり、青い牙を剥いた大波を機影が引き裂く。
翼が波を破った。
機体が飛んでいる。
パーツが組み変わる。
天高く
空の蒼に躍りながら……
『政府専用機と言っているが、いま君がいるのは私専用の航空機だ。
飛行モードでは通常の飛行機形状をとるが、有事において機体は形状が変化し、戦闘に特化した第二形態となる変形型戦略的機動兵器』
ご覧。真の姿に変貌する機影を……
『君は、私の分身の中にいる』
全部、私の計算通りだよ。
「俺に操縦させたのはっ」
『君のパイロットデータを採取するためさ』
その日の体調・その時の心理が、呼吸や脈拍に影響を及ぼす繊細な生き物が人間だよ。
操縦だって同じさ。
昨日と同じ操縦を、今日行う事は出来やしない。
だから、開発したのさ。
α・β・Ωに左右されない新型機動兵器
感応性のない最新鋭ジェネラル
人間の呼吸、脈拍、瞳孔の開き、発汗、そのほか生理現象を感知し、インストール。
操縦を、α・β・Ωに捕らわれる事なく同調し、進化させた次世代システム
α・β・Ωを超えた新規律を生むジェネラルだ。
組み変わった翼が舞い上がる。
空高く
天を駈ける。
その姿………
『戦場の支配者』
空の王者 大鷲
『シキ ハルオミ専用機《FAUST 》』
空駈ける翼を持つ新型ジェネラル
君のいる場所の名前だ。
『私の分身が、君を守るよ』
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