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Ⅵ【ファウスト】第73話

『君が使うといい』 大空に羽が開く。 飛行機形態だった時の銀翼が、陰に染まった。 風が渦巻く。 漆黒の翼が蒼穹を薙いだ。 『……当たらないよ』 モニターの唇が笑った。 レーダーがミサイル接近を感知したのは、その時だ。 ミサイル被弾予測 91% コクピットにアラートが鳴り響く。 回避行動をとらなければ。 操縦桿(そうじゅうかん)を引く。 だが。 『動くな!』 制止したのはモニターの声だ。 「ハルオミさんっ」 俺は言葉を失っていた。 サファイアの双玉が余りにも美しく、確信に満ちた色彩で、俺の鼓動を射貫いたから…… 突如、アラートが鳴り止んだ。 ミサイル被弾予測 86%……73%……66%……40%……31……25……12……9…8…6…5…3、2、1…… (どういう事だ?) 回避行動をとっていないのに、ミサイル被弾予測が勝手に下がっていく。 あり得ない! ミサイル被弾予測 0% パネルに浮かぶ「回避完了」文字 一体なにが起こったんだ? 機体は空中で制止したままだ。 『磁力フィールドだよ』 声が鼓膜を掠めた一瞬 コクピットを揺らす風圧が起きた。 通過したミサイルが、遥か上空で爆発したのだ。 ミサイルが機体をよけた。 そんな事が…… 『起こるんだよ。《ファウスト》の羽ばたきによって生じた磁場が、ミサイルの軌道を狂わせる。 私は文民だからね。ジェネラルの操縦には慣れていないんだ。 だから《ファウスト》の周りに、完全防御空域を張らせてもらったよ』 ミサイル如きで《ファウスト》は撃ち落とせない。 『王者は空に君臨する。 ……支配者は見下ろすものさ』 翼を広げる。 空を統べる最強の猛禽類が(いなな)く。 誰も傷つけられない。 シキ ハルオミ専用機《ファウスト》 翼の陰が海を覆う。 蒼い海が漆黒に飲まれていく。 大鷲の羽の(かげ)りに《タンホイザー》の機体が染まっている。 攻撃を寄せつけず防御で圧倒する、この力の差はなんだ? 空に敷かれる絶対王政 《ファウスト》は、ハルオミさんそのものではないか。 『ナツキが使うんだよ。私の分身《ファウスト》を』

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