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Ⅶ【今世神君】第4話
『偃月 の陣、解除!
総員退避!
上空に飛べ!止まるな。
飛行不能《タンホイザー》は緊急脱出装置で離脱!』
陰鬱な光が高度を増した。
(来る!)
不吉が膨れ上がる。
あの光に当たってはダメだ!
「よけろ!」
『急げ!』
どうしたんだ………
なぜ、《タンホイザー》達は動かない?
…………………………まさかっ!
バンッ
ハルオミさんの拳がパネルを殴った。
『総員に告ぐ。戦線離脱、上空退避せよ!
命令だ!動け!』
バンッ
拳がパネルを殴りつける。
『諸君らは重大な軍規違反をしている。
命令を聞きたまえ!今すぐ戦線離脱せよ!』
………『できませんッ!』
《タンホイザー》からの無線だ。
『国民を守るのが軍人です』
『マルクが沈めば、日本はどうなるのでありますかッ』
『君達が生きる事で、守れる明日がある!』
パネルの光が震える拳を灯している。
……『副総理を見殺しにできません!』
『副総理!日本を守ってください』
『国民を守ってください!』
『テロなんか怖くねぇぞー!』
『俺達は日本を守るα-大日本防衛軍の軍人だー!』
「お前達ッ」
αは……盾になるつもりだ。
禍々しい星の光から、マルクを守る盾に。
やめろっ。
今すぐ退避しろ。
まだ間に合う。
そこを………
『どくんだァァァーッ!』
握った拳が赤く滲んだ。
……『俺達の分まで生きて、日本を……どうか………』
…………………………ツゥゥー
無線が消えた。
海を薙ぎ、海面を裂いて、波を潰して、陰鬱な光が押し迫る。
まだだッ!
α共、お前達はまだ生きている。
諦めるな!
命を盾にして守るな。
そんなふうに守られる事を、俺もハルオミさんも望んじゃいない。
戦って守れ!
生きて守れ!
お前達は軍人だろう。
「戦って生きろォォォオオーッ!!」
大鷲が空を駈けた。
「出力MAX、磁気タービュランス発動」
《ファウスト》完全防御空域
「磁力フィールド最大域 出現!
飛べ、《ファウスト》!」
間に合えェェェー!!
海を削ぎ落とす光よりも速く!
テロ拠点 焼津港から発射された巨大ミサイルが波を突き破った。
着弾させない。
《ファウスト》完全防御空域でねじ曲げてやる。
超磁場の渦が極光を放つ。
俺には……
俺達には……
守るものがある。
俺達は、捨てる命を宿して生まれたんじゃない。
生きるために
生き抜くために、明日を求めて命を繋げるんだ。
「極光値 最大」
いける!
《ファウスト》なら跳ね返せる。
視界が漆黒の影に落ちた。
眼前に迫る巨大ミサイル
軌道を変えてやる。
重量が大きい。
止まっていては完全防御空域を破られる。
「ならば進む!」
加速で防御を強化
《ファウスト》が凶星を屠 る!
…………………………だが。
オーロラが消失した。
「なぜ………」
磁力フィールドがねじ曲げられる物質は、金属を主とした個体
磁気タービュランスが作用する対象は限られている。
液体は、対象外だ。
磁力の気流は、波に勝てない。
波がオーロラを浸食した。
ミサイル射出の風圧で空高く牙を剥いた大海の荒波に、完全防御空域は破壊された。
波を裂いた漆黒のミサイルが、視界を覆う。
…………俺は、ここで………………
……『生きてください』
バキバキバキィ
異音が爆発した。
目の前で《タンホイザー》が火を噴いている。
(俺を、かばったのか……)
『どうか諦めないでください』
『生きてくださいっ』
『あなたも生きなければいけません!』
《タンホイザー》が《ファウスト》を取り囲んでいる。
お前達っ、俺を守って……
「……俺の盾になったのか」
『盾じゃないですよ』
『たまたま当たってしまいました。なぁ?』
『あぁ、こんな所にミサイルが飛んでくるとは思わなくって』
「嘘だっ」
『でも、運がいいです』
「なに言って……」
『たまたまだけど、シキ夫人を守れたからな!』
「俺はお前達に、なにも……」
……………………『ありがとう』
俺は、なにもできなかった。
なにもしてやれなかったのに。
「どうしてッ」
火花を散らす《タンホイザー》の手が、大鷲の羽を弾いた。
《ファウスト》が意に反して、空に舞い上がった。
直後、爆発が起こる。
俺が受ける筈だった破片を、背中に受けた《タンホイザー》が……
半身をもがれた《タンホイザー》が……
火花に巻かれて、火に取り巻かれた《タンホイザー》が……
盾になったα達が、爆発の海に沈んでいく。
どうして、かばったんだ。
俺はΩなのに……
αがどうして、
「ありがとう」って………
Ωに礼を言うんだ…………
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