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Ⅶ【今世神君】第8話

この世界は悪意で満ちている。 悪意が世界を覆っている。 俺達の生きる明日は、貴様の玩具(オモチャ)じゃない! 願いよ! 聞こえるか、お前に届いているか。 俺達と、俺達と共にあるα達の声を聞け。 お前に願いが聞こえているか。 聞こえていたら……… 神に似たる白き魔神(ヴ ァ イ ス ミ ハ エ ル)で…… 悪意を…… 「駆逐しろ!!」 海原(わだつみ)の悪夢を、お前が終わらせてくれ。 「ユキト!」 黄金の装甲がビームを跳ね返した。 巨大ミサイルの散弾が、ビームの反射を受け、火花を散らして燃え尽きる。 波がまた牙を剥く。 充血した目玉のような破片が湧き出てくる。 血色に染まった破片が、ギロリと睨む。 破片が放つビームの先にあるのは…… 神の意志に背いた、鋼鉄の魔神 「止まるな!」 『止まらない!』 《ローエングリン》の黄金の装甲が、ビームを反射する。 サーベルが光を放つ。 太陽よりも熱く。 『お前達の踏みにじった世界は、俺達が甦らせるんだッ!』 海面が真っ二つに割れた。 光の一閃が、ビームごと破片を斬り裂く。 波が真っ白に蒸発する。 《ローエングリン》黄金装甲は、ビームを反射し無効化する。 ブァシャアーッ 海をサーベルの光が砕く。 最後の破片が、自身の放ったビームに焼かれて燃え尽きた。 テンカワ マコト…… 「貴様の野望は終えた!」 『………我が洗礼を受けて殉教しろ』 唇に当てた指の下で、声だけが不気味に鳴り響いた。 空から鋼鉄が降ってくる。 ジェネラルの自爆テロだ。 『ナツキッ』 《ローエングリン》の投げたサーベルが、テロリストのジェネラルの装甲を貫いた。 機体が爆発する。 「なんだッ」 今までにない火炎が取り巻いた。 自爆を前提に爆薬を大量に積んでいたのか。 「磁気タービュランス発動」 間に合うか。 頭上から降り注ぐ、真っ赤に燃える鋼鉄の破片は軌道を曲げて防げるが、炎の渦まではっ。 火炎の嵐が乱気流を突破した。 ギランッ 暗闇に光が灯火した。 イグニッション点灯 オートセンサーON 射出ブリッジ 滑走路にタービンの叫びが、赤い火花を散らす。 『テンカワ アキヒト、《タンホイザー初号機》出撃する』 荒波の上に駈け上がる。 空へ 『俺の統帥に手を出すなァァーッ!!』 ショルダーが開く。 全ミサイル 一斉射出 爆風と風圧が炎を吹き飛ばす。 落ちてくる火を熱ごと、空に押し返す。 雲の果てに。 『シルバーリベリオンの剣が薙ぎ払う』 火の残影が溶けて消えた空に、輝く鋼鉄の機体 『あなたを守るのは俺です。 あなたの騎士が、あなたを傷つける全てを掃討します』 世界の歩みを止めるな。 歩みの音よ、夜明けの海に鳴り響け。 願いは沈まない。 俺達の光で、世界の明日を照らすんだ。

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