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Ⅶ【今世神君】第13話

海面が空高く盛り上がり、天を突き刺す。 絶望する海 遥かに高く、遥かに暗く、うねりのたうつ。 慟哭すら波の牙が砕く、嘆きの壁が海原にそびえ立つ。 ツッ 通信ランプが点滅した。 『《ローエングリン》引き返します』 『ダメだ!』 ハルオミさんが叫んだ。 『作戦続行。焼津港砲台を破壊せよ!』 『しかし、このままではマルクがッ。 《ローエングリン》の長距離砲デュナミスで高波を破り、海を鎮めてから再度出撃します』 『それでは遅いッ』 『どうしてですかっ、今はマルク防衛を優先すべきです』 『……君の目には、なにが映っている?』 『えっ』 『答えろ、シキ ユキト!』 『兄上……』 『お前の目に映る海には、なにがある?』 駿河の海に…… 『同志が散った。多くのαの命が、この海に。 ユキト、この海に眠ってるんじゃない。 海の中に、同志の魂が生きていきているんだ。 同志の生きる海が、私達を襲う筈ないだろう』 ハルオミさん…… 『兄上』 『戦況を報告しろ』 『焼津港砲台、熱量上昇。光度上昇。光が大きく膨れています。 ミサイル第二派射出のためエネルギーチャージを行っているものと思われます』 チャンスは一回だ。 次のミサイルに耐えられるだけの余力は、マルクに残っていない。 『アキヒト君、望遠で目視。レーダーを確認せよ』 『砲台周囲にレーザー防御システムあり。防衛のジェネラルが砲台後方を固めています』 『思った通りだね。長距離砲デュナミス及び、ミサイルは使うな。レーザーで撃ち落とされる。 砲台レーザー防御システムを《ローエングリン》が破壊。黄金装甲を使って、レーザービームを反射させろ』 『はい!』 『《タンホイザー初号機》は、敵ジェネラルを引き付けて掃討せよ。 アキヒト君、《ローエングリン》を援護してくれ』 『了解しました』 『君達が凶星を撃ち落とせ。 生き残って、神を笑ってやろうじゃないか』 翼が波を薙ぐ。 『飛べ』 『シキ ユキト、《ローエングリン》』 『テンカワ アキヒト、《タンホイザー》』 『『凶星を駆逐する!!』』 ウィングが羽ばたく。 『同志達の切り開いた海の(みち)を駈けろ』 ………戦略は「神の導き」を超える。 『それではマルク諸君、偽神(エセガミ)に踊らされた海神を鎮めようじゃないか』 迫りくる高波を前に、黒の支配者(シュヴァルツ カイザー)が笑う。

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