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Ⅷ【サタンの母】
波が裂ける。
青い牙が砕ける。
高熱の弾丸が海を溶かす。
海水が蒸発して、白い蒸気が押し寄せる。
黒い渦に巻かれた海の壁が崩壊する。
波が天に咆哮する。
海原 が割れた。
人工的につくられた高潮がうねり、高波の絶叫が逆巻いて海底に沈む。
波の向こうで、光が輝いた。
黄金の光
《ローエングリン》が、凶星を墜としたんだ……
超新星の爆発が起きた。
そうして、対岸が静寂した。
焼津港 凶星の砲台が陥落した。
ユキトとアキヒトが、禍々しいテロの星を撃破した。
砲台を破壊した今、テロリストの防衛ジェネラルを掃討し、焼津港を奪還するのは時間の問題であろう。
「………俺達は勝った」
過酸化アセトンによる人為的な潮位上昇。人造の高波の脅威は消失した。
「勝ったんだ!」
神から明日を奪い返した。
世界が明日と繋がった。
なのに………
どうして………
眼下に悲痛な鋼鉄の叫びが轟いた。
マルクが沈んでいく。
「どうしてッ!!」
高波は巨砲とミサイルで破った。
海神の怒りは鎮めたが……
サタンの母の抱擁が続いていた。
「余波が……」
高波の後の横波に、戦闘で破損した船体が耐えられなかった。
亀裂が走り、亀裂から亀裂が生じて、鋼鉄の艦が波の牙に砕かれていく。
渦巻く波の抱擁に、艦が飲まれていく。
海上の要塞が海に沈む……
ドォォオンッ
空から火の玉が降ってきた。
真っ赤に燃える自爆テロのジェネラルだ。
「なぜだッ」
勝敗は決しているっ!
マルクはテロリストから焼津港を奪還した。
そして……マルクは沈没する。
なのに、
「なぜだァァァーッ!」
空から降る火の雨が止まない。
なぜ終わらない。
もう終わったんだ。この戦いは、もうっ……
テロのジェネラルの火に《タンホイザー》が焼かれる。
マルク艦艇が爆発する。
命の火が燃える。
「ハルオミさんッ!!」
サタンの母の灼熱の腕が、マルクを抱いている。
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