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第4話

そんな事を考えている間も三国を観察していたが、やはり普段と様子が違う。 「なんか…体調悪いのか?箸進んでねぇし、顔色も悪そうだけど?」 江坂は少し食べては箸が止まる三国に心配して声をかけると、三国は、はっと意識を戻して、「はは。ごめんごめん。大丈夫!美味ぇな!」笑うのだが、またすぐにぼーとしていた。 入った時はニコニコしてたのにな…と思うが、三国は時々チラチラと腕時計を見て、時間を気にしているようだ。 今まで、そんな事なかったのに。 話している時に時計とか携帯電話見る奴好きじゃないって言っていたのに。 なんなんだ?とチラリと三国が見る鞄の側にはどこかの店の袋があった。店に入る時から少し気にはなっていたが…悪いと思いながら中を覗き見ると、その中身は小さい花束だった。 花束…それは江坂にこの関係を変えたいと思わせたきっかけのひとつだ。 前に二人で遊んだ帰り道に花屋に行ったことがあった。 「花屋…?」 「ずっと担当していた子がさ。遂に退院する事になったから。お祝いしたくて」 「いいの?そんな贔屓って」 病院では普通の事なんだろうか?と思うが、その辺りは江坂にはよく分からなかった。 「まぁ…あんまりよくないけど。内緒であげちゃおって」 へへへと笑った顔は少し照れていて相手が特別な子なのかもしれないと思った。 「どんなのがいいのかな?江坂選んでよ」 「はぁ…?知るかよ花なんて」 「デザイナーじゃねぇか!俺よりはセンスあるだろ」 「花屋に任せろよ…」 三国に頼られて悪い気がしなかった江坂は店をキョロキョロと見回し、ひとつの花に目が留まった。 「これ…キレイだな」 それは、可憐や、豪華などより、可愛くて元気という形容詞が似合う花だと思った。色とりどりに元気に咲く花はどこか少し三国を連想させる。どこかと言われても分からないが、見ているとこっちが笑顔になる、元気をくれそうな姿とか。 「じゃぁーそれメインにしよ。すみませーん」 と三国はすぐに店員を呼んでいる。 「これをメインで」 「はーぃ!ガーベラがメインですね!かしこまりました」 店員は手早くミニ花束にし、ニコニコと三国に渡している。 「いいのか?俺が選んで」 「え?いいのいいの。ほら、キレイだろ?」 「…うん。キレイ」 赤やピンクのガーベラが真ん中に彩られている花束は見ているだけで笑顔になりそうなエネルギーを持っている。 しかし、それは江坂の心は曇らせた。 この花束は誰に届けられるのだろう。花束を見て笑顔になっている三国を見て、羨ましいと思ってしまった。その目線の先は誰を想像しているんだろう。 「可愛い子なの?」 「ん?」 「その子」 花束を指さして言うと、その子を思い出したのか三国の顔は少し恥ずかしそうに笑った。 「めっちゃ可愛い!ちっちゃくて思わず助けちゃう。ダメなんだけさ」 はははと笑う顔は江坂の心をぎゅっと締め付ける。 思い出すだけで三国をこんな笑顔にする女性。 臆面もなく可愛いと言う三国の姿に脳裏には三国と小柄な女性が寄り添って歩く姿が浮かんだ。 ずっとこんな関係でいいと思っていた。会って、話して、笑って、そんな関係で。 でも気づいてしまった。 いつか三国に家族が出来て、こんな風に気軽に会えない日が来るのだと。 いつか三国のその笑顔を独占する人がいるのだと。 その日から悩んで、悩んで、悩んで… ある日伝えた。

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