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第6話

三国は何度も花束が入っている袋を見て、時計を見て、時に髪をかいたり、心のここにあらずでピザをつついたり…端的に言えばソワソワしている姿を見ていると江坂は、はっと気付いてしまった。 そして、思い出した。 たしかそれは大学生の時。一緒に何気なくテレビを見ていた時だ。 それは彼女にプロポーズしようと四苦八苦する男性のドラマ。最後は花束を持って、タキシードを来て、夜景の見えるレストランでプロポーズを決行するというものだった。 「あープロポーズってこんな大変なのか…」 大学時代なので、いつかは自分もするのかなという妄想はあったが現実味はなく、いつか出来たらいいなという願望に近いものだった気がする。 三国もため息混じりにテレビを見つめていた。 「だな。ちゃんと出来んかな?俺」 お互いにまだ遠い未来ではははと二人で笑った。 「じゃぁさ。三国がプロポーズする時は予行演習に付き合ってやるよ」 「まじかよ」 「あぁ。その代わりシチュエーションまんまで来いよ!まじで酷評してやるから」 「酷評決定なのかよ」 また二人で笑っていつになるのかなとぼやいていた日をまるで昨日の事のように思い出す。 そんな大学時代の事を江坂は思い出していたのだ。 あの時は遠い未来と思っていたが…そうか…。 「もしかして…プロポーズ?」 江坂は気づいたら声に出ていた。 妙に笑顔だったり、ソワソワしていたり。 花束。レストラン。フォーマルなスーツ。 全てが線で繋がった気がした。 ばーか違ぇよって笑ってくれると思ってた。誰にだよって、そんな気全然ねぇよって。 しかし、三国は笑ってこう言ったのだ。 「バレたか」 と照れながら頭をかいている。 江坂は血の気が引いていくのが分かった。ついにこの日がやってきたのだ。 何も声が出なかった。 「付き合ってそろそろ1年だから…」 「…そっか」 付き合ってる人いたんだ。全然知らなかった。なんで言ってくれなかったんだろう。あんなに、あんなに話していたのに。大切なことは何も聞いてなかったんだな。 江坂は自嘲を浮かべていた。 そっか。そっか。俺、今から大好きな人からプロポーズの予行演習されるのか。 …もしかして、あの花束をあげた子だろうか。たしかにあれは一年以上前だ。 江坂が選んだあの花束を恋人にあげたんだろうか。虚しくて涙が出そうだった。 俺はきっと、その子より三国の事を知っているんだと言ってやりたい。けど馬鹿なことだと分かっている。きっとその子は江坂がしらない三国の顔を知っているだろう。 それからあんなに美味しかったご飯の味は何も感じなくなってしまった。 そこに「失礼します」という店員の声とノックの音が響く。 「デザートお持ちしました」 ニコニコと笑う店員の手には大好物のさつまいものカスタードパイ。いつものいい香りが今日はなんでか妙に甘い香りが鼻につく。 帰りたい。そう思いながら江坂は下を向いた。 「えっと…じゃぁ。江坂、その…えーっと…あー」 言い淀んでいる三国の言葉を処刑を待つ囚人のような心構えで聞いていた。

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