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第7話

―2005年 2月 兵庫県公立高校一斉推薦入試日 朝から見慣れない制服が多いと思ったら今日は公立高校の推薦入試日だった。外は何年ぶりかの雪景色。一か月後にある一般入試よりは少ないが、いつもよりぎゅうぎゅう詰めの土曜日の通学電車で、俺は吊革につかまってぼうっと窓の外を見ていた。斜め少し先にはやけに赤い顔をした、さっき住吉駅から乗ってきた小柄な詰襟メガネの中学生。気分が悪いのか、それとも入試で緊張してんのかな、なんて気になってちらちら様子を見ていると、明らかに表情がおかしくなってきた。かばんの隙間に視線を落とすと、目の前の禿げたオッサンが制服のズボンの中に手を入れているのが見えた。 あいつ、痴漢されとんのか。 周りの人たちに気づいているようすはない。今まで何度も電車のなかで痴漢を見てきたし、俺でさえ触られたことがある。かと言って通学途中の面倒事は勘弁なので友だちのフリをして割って入って助けたり、足を思い切り踏んづけたりして凌いでいた。でも今日は少し距離があるので、そういうわけにも行かず。 「オッサン、やめいや」 人込みを掻き分けて、六甲道駅に到着する寸前にオッサンの手を掴んだ。大柄な父の遺伝子と料理好きな母のおかげで、ありがたいことに俺は15歳には見えない体躯を手に入れていた。腹の出た、さえないオッサンを威嚇するには十分なほど。 「わ、私はなにも……」 「ウソつけ。見とったわ、ボケ」 すぐに扉が開いたので、腕をつかんだまま電車から引きずり降ろした。 「あの、ぼく、その……」 慌てて降りてきた詰襟メガネが混乱してあたふたしているのに気付いて、構わず電車に押し戻す。 「おまえ、ココの駅とちゃうんやろ? 遅刻したらアカンから行け。このオッサンには、俺がようく言うとくから」 ホームを離れる電車から、何度も何度も頭を下げるのが見えた。 俺は案の定HRに遅刻してしまい、1時間目の授業は空気椅子で受けさせられた。帰宅すると母にはもっと効率よくやれば遅刻しないのにと怒られ、父にはそろそろ鉄道警察隊に顔を覚えられるんとちゃうか、と笑われた。 ―2005年4月  神戸高校 ボート部練習場所 HAT神戸 入学式から二週間が過ぎて正式にボート部に入部した日、マネージャーとして先に入部していた、小柄な同級生に話しかけられた。 「あのときは本当にありがとう。おかげで無事に合格しました」 勢いよくぺこりと頭を下げるとメガネが落ちそうになり、慌てて手で押さえて笑う。 ミツルだった。 

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