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第8話
―8月7日(火曜日)、8時
総悟の自宅
けたたましいアラームの音で目が覚めた。夕べ、深夜3時に帰宅した時には戻っていなかったナオトが、俺の横でスウスウと子どものような寝息をたてている。
「ほんまにおまえは、毎晩どこをほっつき歩いとんねん」
ほのかに赤みを帯びる頬を柔くぺちと弾き、起き上がる。
「……気持ちよさそうにぐうぐう寝やがって」
「……もう、そこはアカンて。ゴロウ…」
「誰やねん、ごろう、て。ったく…また犯すぞ」
ナオトと寝たのはあれっきりだ。毎日俺が戻るころには出かけていて、俺が眠りについてから帰ってきている。いったいどこで何をしているのかは分からないし、携帯の番号さえ知らない。ナオトが家にいるようになって2週間になるが、ひとりで暮らしているときと何も変わらなかった。ただ冷蔵庫の牛乳は腐る前に空になるようになり、朝起きたときにコーヒーメーカーから湯気があがっているようになったぐらいだ。
シャワーで寝汗を流すと、クリーニングから戻ったシャツを羽織り袖を捲った。新聞を拡げてスポーツ欄を眺める。インターハイ、ボート競技の結果を確認して独り言ちる。
「へえ、コンディション良かったんやな」
昨日瑞樹と昔話をしたせいか、高校時代について妙に鮮明に思い出せるようになっていた。そんなタイミングで夢に出てきたのは初めて会った頃のミツル。久しぶりに練習場所に差し入れでも行くか、それとも学校に恩師を訪ねてみようか。
カップを流しに置き、かじり終えた林檎の芯をゴミ箱に入れた。左腕に着けた父の形見のセイコーは9時過ぎを指している。玄関に置いたフェルトのロードバイクを抱えてドアを開けた。
「おお、今日もあっついなあ」
まだ午前中だというのにセミの声と蒸し暑い空気が、部屋のなかに一気に噴き込んできた。
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