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第13話 距離(2)

 呆れられている意味が、よくわかっていないのだろう。だが怒ることでもないし、合理的と言えばその通りだ。  仕方なく首を傾げたままの彼に、フェイスタオルを被せてやった。滴るほどではないが、だいぶ髪が濡れて頬に貼り付いている。 「ほら、ちゃんと髪拭いて」  風邪を引かせるわけにもいかない。突っ立ったまま、動かないリュウの髪をタオルで軽く拭いたら、今度は身を屈めて頭を突き出してきた。  まるで幼い子供か、大きな犬を前にしている気分だ。  その仕草に思わずため息が漏れてしまう。けれど大人しく待っている姿を見れば、世話も焼きたくなってくる。  また一つため息をついて、彼の柔らかい髪が傷まないように、優しく髪を拭いてやった。  仕上げにドライヤーまでかけてやれば、ぺたんとしおれていた髪が、いつものふわふわとした髪質に戻る。触り心地のいい髪につられて、頭を撫でると、至極満足げな笑みを返された。 「もういいだろう。早く服を着てこい」 「うん」  背中をぺちりと叩けば、リュウはご機嫌な様子で横を通り過ぎていく。鼻歌でも聞こえてきそうな機嫌のよさは、どこから来るのだろう。  彼のよくわからない、感情のスイッチに首をひねりながら、自分も濡れたシャツやズボンを脱いだ。  解いた髪を適当に拭いて、服とタオルを洗濯機に放り込む。洗剤と柔軟剤をセットして、スタートボタンを押せば、水が勢いよく吐き出された。  ぼんやりそんな様子を眺めていたら、ふいに視線を感じる。  なにげなくその視線を振り返ると、リュウが洗面所の入り口に突っ立っていた。 「どうした?」  声をかけると、なぜか驚いたように彼は肩を跳ね上げる。その反応に首を傾げれば、手にした服をおずおずといった様子で、差し出してきた。 「あ、えっと、着替え」 「ああ、悪いな。ありがとう」 「うん」  受け取って礼を言うと、小さく頷き返事をするけれど、リュウはじっとこちらを見つめたまま動かない。  不思議に思い、名前を紡ぎかけたが、自分の姿を見下ろしてその意味を悟った。

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