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第27話 存在(4)

「リュウ、まだ起きてたのか」  風呂から上がって、寝室に行くとリュウがベッドの上でまだ本を読んでいた。真剣に読んでいるのか、こちらが部屋へやって来たことに気づいていないようだ。  傍まで行って、のぞき込むとようやく顔を上げた。  驚きに目を瞬かせる彼の頭を撫でたら、表情を一変して満面の笑みを浮かべる。それは少し子供っぽい表情だけれど、華やかで周りが明るくなる笑顔だ。  なんだか胸の辺りが少し温かくなった。  だがそれに浸りそうになった自分を、慌てて引き止める。無闇に近づき過ぎてはいけない。 「なにを読んでいるんだ」 「宏武の本」 「ふぅん、面白い?」 「うん、面白い」  リビングの本棚には、そういえばそんな本も並んでいたか。普段はシナリオを書いたり、雑誌やブログの記事を書いたり細かな仕事が多いけれど、本の執筆もすることもある。  それほどたくさん出してはいないが、シナリオを小説化したものやエッセイなどが多い。リュウが読んで、面白いものでもないような気がするのだが、わからないものだ。 「目を悪くする。今日はもうやめておけ」  寝室は間接照明で薄暗い。スタンドライトの明かりはあるけれど、本を読むにはやはり少し暗い気がする。しかしリュウは「うん」と生返事するばかりで、また本に視線を戻す。  その様子はまるで幼い子供のようで可愛い。けれどせっかくいい目を持っているのに、悪くなっては元も子もない。読んでいる本を取り上げると、しおりを挟んでサイドテーブルに置いた。 「もう寝るよ」 「わかった」  まだ物足りなさそうな顔はしているけれど、こちらの言うことに文句を言ってくることは、まずない。  リュウがタオルケットを被り、横になるのを見届けると、自分もベッドの上に乗り上がった。

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