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第47話 初夏の便り(1)
それから彼のいない日常に戻った。
雨降りを憂鬱に思いながら、ため息を吐き出し、雨の中を文句ばかり呟きながら歩いて出かける。
買ってきた味気ない、コンビニの弁当を腹に収め、やけに広く感じるようになったベッドに横になった。
リュウがいなくなってから、夜が眠れなくなっている。雨降りの日は熟睡することができず、浅い眠りの中をうつらうつらする。
夢を見るのだ。
人の足がぶら下がるあの奇妙な夢を見て、恐ろしくて目が覚める。
最近それは少しずつ形をなしていて、足だけだったものに、身体まで見えるようになってきた。どんどんと近づいてくるような、そんな恐怖が眠ることを拒ませる。
一体なぜ、そんな夢を見るのだろうかと考えてみるが、結局なにも思い浮かばない。
ただただそこに恐ろしさがあるばかりだ。それでも人の気配や視線、白昼夢はリュウがいなくなり、一人になると、感じることも見ることもなくなった。
それがなぜなのかは、いまだにわからない。
だがそんな日々も、日が経つにつれ終わりが見えかけてくる。雨の日が格段に少なくなってきたからだ。
夏が近いのか、晴れた日は太陽がさんさんと輝き、気温をぐんと上昇させる。
夏の暑さが得意なわけではないが、雨の日が続くよりずっとマシだ。雨さえ降らなければ、あの嫌な夢も見ることはない。
ようやく雨音から開放される。
「……フランツ・オーモン」
雨が降ることもなくなった初夏。一通の手紙が届いた。
封筒に書かれたその名前は、一度聞いただけだが、何度も手紙をもらったことがあるので覚えている。今度は一体、なんの知らせだろうと思わず首を傾げてしまう。
リュウが帰ったあとに、フランツから保護してくれた礼として、謝礼金を払いたいと申し出られた。
それを断ったら、今度はなにか贈らせてもらえないかとまた連絡が来て、それも断ったら、なにかさせてもらいたいので望むままにすると言われた。
なにも望むものはないと返事したら、それきり連絡が途絶えたのだが、またなにか思いついたのだろうか。
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