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第55話 再会(1)

 目が覚めたら、真っ白な天井が見えた。  見覚えのないその景色に、瞬きを何度か繰り返して視線を動かすと、自分が白いベッドの上で横になっていることを知る。  ゆるりとさらに視線を動かしていけば、左腕に点滴の管が刺さっていた。そこでここは病院かと理解する。  病室の中はとても静かだ。ふと顔を左に向けると、真っ白なカーテンの向こうに、赤い夕日で透けた窓が見える。  それは少し開いているのか、カーテンが風で時折ふわりと揺れた。部屋の中に視線を戻してみるが、間仕切りの長いカーテンで遮られて、ベッド以外の様子は見て取れない。  この病室に自分は一人なのだろうか。そしていまは現実なのか、それとも過去の記憶の中なのか。それが曖昧でよくわからない。  確かあのあと気を失った自分は、三日経ってから通いの家政婦に発見され、一命を取り留めた。  その時もこんな真っ白い空間で、目が覚めた気がする。これは記憶の続きなのか。しかし持ち上げた右腕を見て、いまが現実であることを認識した。  持ち上げた腕は、成人男性にしてはいささか細い、真っ白な腕だ。だがその白い腕に、あざや傷は見当たらない。  あの時受けた傷は、しばらく身体に刻まれ消えなかった。それに目が覚めた時の自分は、あの人のことを綺麗さっぱり忘れていた。  だから覚えているいまは間違えようもない現実だ。  とはいえなぜ、自分は病院に運ばれたのだろう。  ぼんやりと天井を見ながら記憶を巻き戻してみると、瞬きをして考えを巡らせた途端に、ぷつりと記憶が途切れる。どうやら自分はあの会場で、あのまま気を失ってしまったらしい。  そうか、だから過去の記憶が垣間見られたのか。  自分の過去――それはあまり気分のいいものではなかった。

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