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第58話 再会(4)
「宏武いないから、倒れた人、宏武だと思った。だから急いできた。間に合ってよかった」
隙間がなくなるくらい、きつく抱きしめてくる彼はとても温かい。全身から自分を案じていた気持ちが感じられて、嬉しく思ってしまう。
肩口にすり寄ったら、髪に頬を寄せ、こめかみにキスをしてくれた。
もう彼のことを考えるのはやめようと、先ほど思ったばかりなのに心が揺れている。どうしてもこの喜びを打ち消すことができない。
「リュウ」
顔を上げて綺麗な瞳を見つめ返す。そして久方ぶりに彼の名前を呼んだ。そうすると彼は――リュウは、嬉しそうに目を細めて笑い、優しく唇に口づけてきた。
甘くて柔らかな口づけに、思わずうっとりと目を閉じてしまう。
しかしふいに鳴り響いたクラクションの音に驚いて、目を開く。それと共に、触れていた唇も離れていった。
「送るよ」
手を引かれて、停車している車の傍まで行くと、後部座席のドアを恭しく開いて、リュウは自分を車の中へと促す。促されるままに車に乗り込めば、彼も続いて乗り込んでくる。
なんのためらいもなくこちらの手を取ると、彼はそれを強く握った。
運転席にはフランツがいて、バックミラー越しに自分たちの様子は見られている。
気恥ずかしさを感じて、握られた手に力を込めるけれど、逃すまいとするかのように、その手は絡みさらに強く繋がれてしまう。
繋いだ手は、手のひらに熱が集まったみたいに熱かった。どちらの手が熱くなっているのかわからないけれど、それだけのことで頬にまで熱が移ったようになる。
いま顔を合わせたら、それに気づかれてしまいそうで、さりげなさを装い流れゆく窓の外を見つめた。
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