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第60話 想い(2)
手にしたパンフレットがバサリと床に落ち、背中が壁に強く押しつけられる。するともっと奥へ深くへと、彼が押し入ってくる。
キスの合間に何度も名前を呼ばれ、そのたびに自分は肩を震わせた。
「会いたかった。宏武に触れたかった。ねぇ、宏武が欲しい」
スラックスのウエストから、シャツとインナーが引き抜かれて、その隙間にリュウの大きな手が忍び込む。
その手に肌を撫でられると、正直な身体はビクリと跳ね上がった。相変わらず少し乱暴なくらいだけれど、この身体は触れられることに喜びを感じている。
覚えているのだ、彼のこの手がどんな風に自分を愛していくのかを。
それと同時に、心には不安も浮かぶ。彼が本当に求めている相手は、自分ではないかもしれないという不安。
愛されている錯覚を、しているだけなんじゃないかと、そう思うほどに胸がキシキシと痛む。
しかし心が繋がっていないほうがいい、そう決めて彼に確認をしなかったのは自分なのだ。だから彼が自分に誰を重ねていても、それをとがめることはできない。
「宏武? なぜ泣くの?」
頭ではしっかりと理解しているのに、胸が痛んで苦しくて仕方がない。心が茨で、がんじがらめにされているかのように、ズキズキと痛む。
愛されていないのだと、そう思えば思うほどに、自分は彼が愛おしくて仕方がないのだと気づく。
この男に愛されたいのだと、「代わり」になるのは嫌なのだと、心が泣き叫んでいる。
無邪気な笑みも優しい手も、まっすぐに見つめるあの瞳も、すべてが欲しい。自分は彼のすべてが欲しいのだ。
どうしてこの気持ちに、気づいてしまったのだろう。なぜ彼に出会ってしまったんだろう。
「好きなんだ、あんたが好きだ。だからもう触れないで」
両手に力を込めて肩を押し離したら、彼は後ろへ一歩下がり、戸惑った表情を浮かべる。
ずるずると力なく、しゃがみ込んだ自分を見つめるリュウは、固まったように動かない。止めどなく涙がこぼれてゆく。
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