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第77話 約束(3)

 お互いがお互いのすべてを愛していたのに、愛するがゆえに愛し方を掛け違えてしまったのかもしれない。  だからあの人もアキも、最悪な結末を選んでしまった。  残された自分たちは、愛する人への想いを断ち切ることはできなかった。  あの映画の主人公のように、愛を手放して、すべてがリセットされるなんてことはあり得ない。  心があれば、どうしたって失ったものの大きさに、引き裂かれる思いをする。  だからあのラストに自分は引っかかりを覚えた。でもリュウはアキの気持ちを、そこに重ねてしまったのだろう。 「愛したことを、後悔はしてる?」 「してない」  うっすらと涙が浮かんだ目は、揺らぐことなくまっすぐだった。そこには淀みもなくて、強い意志さえ感じる。  リュウは本当に、アキのことを愛しているんだ。いまも心の中から失われないくらい深く。その想いは簡単に、拭い去れるような想いじゃない。 「けどいまは、宏武のことが好きだ。それはいけないこと? 宏武もまだ忘れていないんでしょう?」 「それは」  瞳をのぞき込まれて、今度は自分が息を飲む。彼と同じように、自分もまだ忘れていないのだということに、改めて気づかされる。  いまはもう、愛おしさではないかもしれないけれど、自分の心にはまだあの人がいる。その存在はなによりも大きい。  彼がアキを忘れられないのと同じくらい、深い感情だ。リュウはあの人に、自分は彼の恋人に、お互いもういない相手に心が焦げ付くような嫉妬をしているのか。  そう考えると、なんて滑稽なんだろうと思えてしまう。  しかし先立つ人の面影は、深く心に刻みつけられて、そう簡単には消えていかない。

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