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「参ったなぁ」 「まぁあれだ。目を覚ませば事情もわかんだろ。それまで寝かしとけばいいじゃん。重病って感じでもないしさ」 「無責任なこと言うな。つか、いつの間にウチの商品食ってんだよっ」 「売れ残りだしいいじゃん。男前メンチ効果で俺もイケメンになれっかも」 「なんじゃその男前メンチってのは」 「知んないの? 男前が作るトキタの男前メンチカツって、団地のおばちゃん連中が言ってたぜ。いいよなぁ、イケメンってだけで何でも商売になる」 「バカ言うなや。ウチは昔から味で勝負してんだ。メンチも親父が考えたレシピをちゃんと守ってる」 「照れるな、中高年のオナペットめ」 「キモいキャッチコピーつけんなや。酒屋の子作り王が」  早くに結婚した巧は、すでに五歳と三歳の子持ちである上に、目下嫁さんは三人目をご懐妊中だ。あまり料理が得意でない嫁さんはトキタ惣菜店の常連で、チビたちふたりは逸也の惣菜で大きくなったようなものだし、三人目も細胞のうちからトキタの味を知っていることになる。  幼なじみの気安さで、いつものように言いたい放題の会話はキリがなく、ふたりともあの青年が目を覚ましたことに気づかないでいた。

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