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 翌日。雨はあがったがどんよりとした曇天で、気温は朝から横ばい状態だ。おかげでおでんの売り上げは好調だけど。 「トキタのおでんが始まった」  十一時の開店と同時に買っていった団地の客が噂を広めてくれたせいか、ここ数日姿を見せなかったおばちゃん連中が代わる代わるやって来て忙しい。 「まさかこんな早くにおでんが並ぶなんて思ってなかったから助かるわぁ。うちで作るのとやっぱり違うのよねぇ、美味しさが」 「男前のイッちゃんが作るからよねぇ」 「あはは、そーよねぇ。男前が作ったおでんだもの、美味しさ三割増しだわよぉ」 「はは、舌の肥えた勝田さんに褒めてもらえておでんも喜んでますよ」  賑やかなおばちゃんトークに、商売を継いだ頃はタジタジだった逸也だが、三年目ともなればあしらいかたも板についたものだ。「舌よりも下半身のほうが肥えてるけど」なんて心の声は一ミリも見せない。

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