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「あ、そうだ。ねぇ、塚田のおばあちゃんにもトキタさんのおでんが始まったって教えてあげなきゃ」
「あら、塚田さん、こないだ転んで腰を打ったとかでしばらく出歩けないって聞いたわよ」
「まあ、それは心配ねぇ。塚田のおばあちゃん、ここのおでん大好きなのに」
騒がしくおばちゃんたちが帰っていくと、ようやく客足の落ち着いた店内で逸也は整った眉を寄せて腕組みをした。
塚田のおばあちゃんだけでなく、団地に住む高齢者にはトキタの常連が多かった。線路を越えて向こう側のスーパーまで買い物に行くのは不便であり、なによりトキタの味を好んでくれているお客さんたちで。けれどもエレベーターの設備もない古い団地から、雨の日に買い物に出るのはひと仕事らしい。
独り暮らしのお年寄りの中には、ひとり分だけ作る手間が大変だとトキタを利用している人も少なくない。そんな話を聞くと、宅配でもしてやりたいと思うのだが、ひとり営業ではなかなか難しいサービスだ。
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