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 何気なく口から出た問いだったが、日向の顔色を見て逸也は地雷を踏んだことを悟った。 「まぁな、親に頼れねぇ事情もあるんだろうけどな」  日向は正座した膝に置いた自分の拳をしばらく見つめていたが、ふっと息を吐くと生い立ちを話し始めた。 「俺には親はいません。生まれて間もなく施設の前に捨てられていて。名字も名前も施設の職員さんが付けたんです。津村は俺が入ってた段ボールに書かれた会社名で、日陰に置かれて低体温で死にかけてたから日の当たる場所にいられるように日向って。日向で生きてきた実感はあんまりないけど」  唇を曲げるように笑う日向の、そうじゃないときはあどけなくも見える童顔が、やるせない影に曇って年齢不詳みたいに見える。 「たばこ、吸っていい?」  断ってから灰皿を引寄せて、逸也はカチリと火を鳴らす。ふわふわ漂う白い雲がすべて消えるまで、ふたりは無言のままだった。

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