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鼻唄を歌いながら調理場に下りて仕込みを始めると、朝食の片付けを終えた日向がいつの間にかそばにいて、いつの間にか手伝ってくれていた。「きんぴら」と言えば人参の皮むきを始めるし「だし巻き」と言えば玉子を割ってくれる。
「さすが調理経験者だな。助かるわ」
「いえ、下ごしらえが仕事だっただけですから」
昨日よりずっと良くなった血色でこちらには目もくれず人参を刻む横顔に、ふっと逸也は笑みを漏らした。
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「お前、またおでん?」
逸也が適当な総菜をもって座敷にあがると、日向は熱々のがんもどきにふうふうと息を吹きかけているところだった。
「あ、ダメでしたか?」
「いや、いいけどさ。そんなに気に入った?」
「だって……美味しいから」
うつむきがちにボソボソ呟いた日向の、もぐもぐ動く頬は艶やかに光って、夕べより心もちふっくらしたように見えた。昨日の今日でそんな即効性は信じられないが、自分の作った物が、食べた人の血肉となりエネルギーを生むことを妙に実感してしまった。
だって、美味しいから。って、嬉しいじゃないか。
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