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 日向のおかげで昼前に夕方の分の仕込みは終わっていて、男前メンチもアジフライも揚げるだけだったのが不幸中の幸いだった。いつもならうとうとしても、客の来店を知らせるチャイムが鳴ればパッと起きられたのに。 「なんだよ、俺も年なのか?」  やだやだ、と呟きながらフライヤーの中へメンチを滑らせる。シュワーっとあぶくをまとった楕円形が黄金色に色づけば、バットに上げて少し寝かせてやり余熱でふんわりと火を通す。合挽肉に刻んだ玉ねぎ、コショウを利かせて隠し味はひとつまみの砂糖と少々のカレー粉。先代のレシピを守ったメンチは、シンプルだけど飽きがこない。  昨日の惨敗の反動か、今日は仕込んだ分が閉店の一時間以上前に売り切れた。おでんも好調で大鍋はきれいにカラになり、今夜のトキタ惣菜店は定刻の九時より早くシャッターをおろした。

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