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「日向、上がっていいぞ。風呂沸いてるから先に入っちまえ」  デッキブラシで調理場の床をこすっていた日向に声をかけてから逸也は表のシャッターをおろした。起きた風でアルミサッシに張られたブルーシートがぶわんとはためく。 「あの……」 「ん?」 「ガラス修理、いくらかかるんですか?」  巧が猫田ガラスに話をつけてくれたおかげで、親父さんが朝イチで見積もりに来てくれていた。思った以上の良心価格に、商店街の横の付き合いをありがたく感じた一件だった。こんど一杯奢らないとな。 「相場よりも安かったぞ。お前の釈放は近い。安心したか?」  ガラス代金を盾に人質の身としては、いつシャバに戻れるのか心配なんだろうと思ったが、日向の顔に浮かんでいる不安の色は薄まらない。  ペコリとひとつお辞儀をしてから二階へと上がっていく後ろ姿に首をかしげながら、逸也は床へ勢いよく水をまいた。

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