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 あったかくてふわふわしていてぽわんと明るい「家族」というもの。自分の持っていないそういうものを大人になれば自分で作ることができるんだ。それはとても素敵なことに思えた。  だから思春期に入り性の仕組みを知る頃、自分の意識の向く先が同性ばかりだと気づいたときの絶望感ときたら。神様はとことん自分に「家族」を与えないつもりなんだと思わずにはいられない。自分はどれだけ前世で神様を怒らせたのか。  手に入らないと知ったものの代わりに、日向に希望をくれたのが「仕事」だった。  それも今は失ってしまった。 「ふが」  膝の上の重たい塊が身動きした。のんきに眠る男前を見おろして、日向は不思議な気持ちになっていた。  バツイチだと話していた逸也。家族を自ら手放すというのはどんな心境なんだろう。両親も亡くし、残ったこの店でひとり暮らすのは寂しくないのだろうか。家族が恋しくないのだろうか。  最初から持っていないものを無くすよりも、当たり前にあった存在を失っていくことの方がずっと辛い。きっと。

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