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「ぶっちゃけちゃえばお前が心配だっつうのが大きな理由だけど、そういう同情の中で働くのは嫌だって言うんなら断ってくれ。その代わりどこか仕事先探してやるからさ。おかしなところに住み込みとかはやめておけ」 「嫌だなんて……、むしろ俺はここでずっと働かせてもらいたいって、でも、そっそんな図々しいこと、言えなくて……」  こみ上げてくる嬉し涙でうまく言葉が繋がらない。精一杯の感謝をこめて日向は椅子から立ち上がると深く頭を下げた。 「あり、ありがとうございます! 俺っ、俺イチさんの役に立てるよう、が、がんばりますからっ。絶対ぜったい役に立ちますからっ」  ぱたりぱたりと落ちた雫が、日向の足元に小さな水溜まりを作っていく。ふわりと空気が動く気配がして顔をあげようとしたその時、あたたかい手のひらが下げた頭を包むように降ってきた。 「イチさ……」 「頑張らなくていいんだよ、日向。ダメな兄ちゃんが店継いじまったから仕方なく手伝ってやるかー、ぐらいの気持ちでいいんだ」  トキタを辞めなくていい。逸也のそばで働ける。思いがけない喜びに肩を震わせる日向を逸也が抱きよせた。とたんに嬉しさが度を越えてパニックになりかける。 「イ、イチさん?」 「つうことでさ、今夜はさ」  厚い胸板に押しつけられた頬に低い声が響いてきて、日向はキュッと目をつぶった。今夜、これ以上の奇跡が起きるっていうのか。心臓の音が聞こえてしまったらどうしよう。 「飲みに行くぞー」  能天気に上着を羽織る後ろ姿に、日向は真っ赤な顔で中指を立てた。

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