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「あーらー、イッちゃん、いらっしゃあい」  板チョコのような木製ドアを開けると、調子っぱずれな昭和歌謡が逸也と日向を出迎えた。カウンターで常連らしきオヤジとデュエットしていたあかねママが、マイクを通した大音量で大歓迎してくれる。 「きゃー、その子が噂のヒナちゃんね? スナックあかねへようこそー」  商店街の真ん中を通るあけぼの通りから一本脇に入った路地には、いくつかの飲み屋が軒を連ねている。『スナックあかね』は身長百九十センチ、元自衛官おねぇのママが営む普通のスナック、という、ちょっと風変わりな店だった。 「よ、先に飲んでんぞー」  ママの名前を意識したのか、茜色のソファが並んだボックス席で、巧がグラスを持った右手を掲げて笑っている。 「わりぃな。遅くなった」 「その節はご迷惑をおかけしました」  巧に頭を下げた日向の様子に、あかねママが野太い裏声で「堅苦しいの抜き抜きー」とボトルを運んでくる。

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