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「どーもぉ、あかねと申しまーす。か弱く見えるけど、ママでーす」
二十歳になったばかりの日向にとってこういった酒の飲める店は初めてだし、あかねの濃いキャラにすっかり気圧されながら角の丸い名刺を恐る恐る受け取った。
ワンショルダーの赤いスパンコールドレスがミラーボールのようにキラキラ光るのが妖艶だが、その下からかなりな広範囲で覗く肉体は筋骨隆々だからいろんな意味で迫力がある。
「いやーん、お肌つるつる。顔ちっちゃーい。クールビューティーな美人さんねぇ。好みだわぁ」
「こら、あかね! いたいけな子羊に毒を塗り込めるなっ」
あかねママに撫で回されて固まっていると、逸也が自分の方へ引き寄せるように肩を抱く。心臓がコトンと跳ねた。
薄暗い照明の店内で見る逸也は、彫りの深さが頬に艶っぽい陰影を落とし、普段はタオルで隠れている緩くウエーブした髪がはらりと揺れる様が大人の魅力を演出しているようで、とにかく日向の心拍数は平常時よりも二割増しのスピードだから苦しい。
男っぽい喉仏の下、オリーブグリーンのVネックニットから覗く鎖骨。無造作にたくしあげた袖口を盛り上げている肘から下の筋肉。手首に巻かれたゴツめのクロノグラフ。目に入るすべてが燃料のように日向の心を高まらせる。
更に速まる鼓動を落ち着かせようと、日向は差し出されたグラスを一気に煽った
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