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「イチさん、頼むからまっすぐ歩いてくださいっ」
「えー、どっかの軍隊並みにまっすぐ行進してんだろぉ」
「してたら電柱にぶつかったりしませんってばっ。ああもう、危ないっ」
閉店した店のシャッターにフラフラ向かっていく逸也の腕をとってどうにか軌道修正してみても、今度は車道に向かって進もうとする。
「日向ぁ、ダメだー、おんぶしてくれー」
「ちょっとっ、重いっ」
背中にのし掛かられて膝が折れそうになる。まったく、弱いくせになんで飲むかなぁ。
日向と逸也の体格差は歴然としていて、筋肉量のせいで見た目よりずっしりしている体を背負えるのは、陸自出身のあかねぐらいしかいないだろう。
「イチさん、無理っ。持ち上がらないからっ」
「いい。このままこーやって歩いて帰る」
日向に後ろから覆い被さったままヨタヨタと歩こうとするけれど、後ろ抱きされたこの状態は心臓に悪い。回された腕の感触と背中に感じる体温。右耳のすぐ横に逸也の鼻先と息づかい。死ぬ。
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