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「だ、だったら離婚なんかしなきゃよかったんじゃないんですか」  脳内も下半身も軽くパニックに陥っている日向が、考えもなしに発した言葉にしばしの沈黙が流れた。ああ、地雷を踏んでしまった。いくらなんでもプライバシーに立ち入りすぎた失言だった。  謝ろうと口を開きかけたところで、逸也がため息のように呟いた。 「そうだなぁ……。離婚、っていうか、結婚しなきゃよかったんだよなぁ」 「でも……、好きだから結婚したんですよね?」 「そりゃまぁ、ね。んでも、この店か嫁か……ってなったときに俺はさ、店を継ぐって考えしか浮かばなくて。向こうにしてみりゃ総菜屋のおかみさんになる人生設計なんて爪の先ほどもないお嬢さんだったから、ひどいことしちまった」  胸の奥がキュッと痛んだ。家族のために家族を捨てた人。こんなに甘えたなのに、ひとりでトキタのために頑張っている人。 「イチさん」  勇気を振り絞って回された腕に手を重ねると、規則正しい寝息が日向の耳元をくすぐった。すでに深い眠りの国の住民には聞こえないだろうと、面と向かっては口が避けても言えない言葉をそっとこぼした。 「俺、女の子じゃないけれど……、イチさんのそばにずっと置いてもらえませんか」  切なくて、恋しくて、心ごと抱きしめたい。そんな夜。

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