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汗を拭いながらニヤニヤした視線を投げるあかねに「んなことねぇし」と返して、脱いだティーシャツをバッグに押し込めた。
「ねぇ、ランチ一緒しましょうよ。駅向こうにできた新しいお店。ヒナちゃんも誘ってさ。アタシが奢っちゃうからっ」
「うちに帰って速攻でシャワー浴びてくるから駅前で待っててちょうだいっ」と言い残し、あかねはロッカールームから風のように出ていった。
マッチョなおネエのあかねは、この小さな町ではちょっとした有名人だった。筋骨隆々、なのにおんな言葉。そんなあかねを奇異な目でみる人は少なくないし、たとえばこのスポーツジムのようにシャワールームを使用できないといった不便も多い。
「あらぁ、こんなお化けを入会させてくれるだけでありがたいことよぉ」とあかねは笑うが、逸也はなんとも納得できずにいる。
心と体が一致しないのは本人のせいではないし、むしろそれは個性だと思う逸也だった。
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