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「あ、そうだ。焦っちゃって忘れるとこだったけど、あかねがさぁ、昼めし奢ってくれるんだってさ。日向も連れて来いつうからさ」
「え、俺はいいですよ。ここも終わってないし」
後ろめたさに顔を上げられず、ゴシゴシと鍋をひたすら擦る。
「だーかーらー、そんな根詰めなくたっていいんだってばよ。そこは俺がやっとくから着替えてこいや」
腕まくりをした逸也にたわしを奪い取られて日向はしぶしぶその場を離れた。昔作りのシンクは背が低く、上背のある逸也はかなり前かがみにならないと洗い物ができない。鼻唄を歌う丸まった背中で、いま鍛えてきたばかりの背筋が美しく動くさまに暫し見惚れ、日向は甘くて苦いため息をついた。
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