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いつの間にか両手をぎゅっと握りしめていた。たぶん口許も同じようにこわばっていたんだと思う。
振り向いた逸也が空也を地面に下ろすと日向の腕を引っ張るように引き寄せて、兄弟の頭をまたワシャワシャとかき回した。
「残念ながらイッちゃんちは今日はお休みでーす。だがしかーし、あかねちゃんが美味しいお昼をごちそうしてくれるんだって。行きたい人っ?」
「はーい」
もみじのような手のひらと一緒に、幸恵の手も上がった。目が合うと「ふふっ」と微笑まれる。
特別目立つような美人ではないが、幸恵の持つ女性らしいやわらかな雰囲気は魅力的だ。
あかねの店のアヤカとは美形同士なため、まるでグラビアを見ているような迫力あるツーショットだったが、まるいお腹の幸恵と逸也は町の景色にとけ込むようなありふれた、だからこそ幸せそうな親子連れに見える。
何を考えてるんだ。幸恵さんはタクさんの奥さんで、もうすぐ三人目も生まれるっていうのに。日向はしょうもない嫉妬をする自分に嫌悪し、軽く頭を振ると疑似親子のあとをトボトボと歩いた。
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