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 他人の自慰行為を見るのは初めてだが、こんなに扇情的なものなのか。苦しげに寄せられた眉と固く結ばれた目元。薄桃に上気した頬と薄く開かれた唇。  逸也は口のなかに溜まった唾をゴクンと飲みこんだ。あ、これが生唾を飲むってやつか。うわ。 「好き……」  荒い息のなかで呟かれた言葉に、首の後ろがぶわりと熱くなった。日向はいったい誰と交わっているんだ。誰が好きだって。俺の嫁なのに。ちくしょう。  眼裏を焦がす炎のような感情が嫉妬だと気づいた瞬間、逸也は激しく動揺した。  自分はそういう目で日向を見ていたのか。今までの過剰ぎみなスキンシップは日向に触れたいという欲求だったのか。よくわからない。けど、いま目の前で、皮をむかれた果実のように色香を滴らせている年下の男へ、触れたいと思っている。これは……。 「イチさん、好き」  頭のなかで特大のクラッカーが破裂した。パンと弾けたそれは、数秒の沈黙ののち、ふわふわ舞う紙吹雪のようにゆっくりと逸也の全身に落ちてくる。  イチさん、好き。イチさん、好き。イチさん、好き。

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