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「マジか」
思わず出てしまった逸也の声に、蜜に浸されていた日向の瞳がパリパリと凍りついた。目があえば雪像にされてしまいそうな視線が飛んできて、まともにくらう。痛い。
「す、すまん。覗き見するつもりはなかったんだけど、その……ちゃんとイケた?」
赤く染まっていた頬は急速に紙のように色をなくしてなにか言いたげに震えたが、言葉を探した口許は、苦いものでも噛み締めたかのように歪んだだけで。
「日向?」
脱ぎ散らかされた衣服をすごい速さで拾い集めると、日向は無言で自室に駆け込んでしまった。ピシャリと閉められたふすまの音に、逸也は額へ手をやると「やっちまった」と天を仰ぐ。なんでこうデリカシーがないのかと自分を呪いたくなってもあとの祭り。
「それにしても……、なぁ」
男の裸に欲情したのは初めてだった。驚きながら嫌悪感はない。そっち方面になんて興味がなかったはずなのに。
「日向は……」
男を好きになるやつだったのか。だとしたら過剰なスキンシップに困っただろう。いや、だから俺を好きになったのか?
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