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「日向っ、お前、どこ行くんだよっ」
物音の正体は玄関先で靴を履こうとしている日向だった。背負った大きなバックパックが、狭い廊下の壁にぶつかってガタゴトいっている。
こんな荷物を持って出掛けるって。逸也の顔に険しさが浮かんだ。
「日向、なんで出ていく?」
答えない日向の手がドアノブにかかるから、逸也は阻止しようとバックパックを力任せに引っ張った。小柄な日向は上がりがまちにステンと尻餅をついたあと、バックの重さに耐えられずそのまま後ろへひっくり返る。
「な、にするんですかっ。馬鹿力っ」
「なにってお前こそなんなんだよ。こそこそ出ていこうとすんなよ」
上から見下ろす逸也と目があうと、日向は唇を噛んでそっぽを向く。えらく険しい横顔なのに、目元がうっすらと赤い。
「……見たでしょ」
「は?」
「俺がしてたこと……、見たでしょ。だからここにはいられないです」
「なんだよ。男なんだからさ、溜まったら抜くのは当たり前だろ。恥ずかしがんなよ」
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