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8―12
「イチさん、酔ってないですよね?」
逸也の肩口に顔を押しつけた日向の声は少し鼻声っぽい。華奢だけど、回した腕に感じる固さは女の子のそれとは違って、けれどもなんだかしっくりくる。さえぎる柔らかさがないせいか、ダイレクトに伝わる心臓の音が愛しかった。
「全身全霊でシラフだぜ。強いて言えば、お前に酔ってる」
「うっわ、全身全霊でオヤジくさい」
ふわんと笑う気配に逸也はにんまりとしてしまう。オヤジくさかろうとなんだろうと、日向が笑ってくれるなら。笑ってそばにいてくれるなら。
緩んだ頬をつむじに押しつけてからもう一度、全身全霊で唇に愛を落とした。
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