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なにを言うかと思ったら。それを言うならヤオイダのバイトは逸也に見惚れていたんだというのに。ポイントカードを手渡すとき、目元がうっすら赤く染まったのを日向は見逃していなかった。まったくこの人は、自分の見た目に疎すぎる。
「それはイチさんにポーっとしてたんだと思いますけど。それに俺が女の子の熱視線なんて嬉しくないの知ってるでしょ」
「いや、あそこの店長って男前だからさ、万が一お前がポーっとなる危険もなくはない」
「バカじゃないの」
目の前に桁外れの男前がいて、どうやって目移りするというんだろうか。というより、顔で相手を選ぶと思われることは心外だし。
ムッとしながら引き戸に手をかけると、逸也が立ち上がる気配がした。次の瞬間、背中にあたる硬い筋肉と巻きついた長い腕。明るい日差しのなかでは似つかわしくない甘い吐息と。
「俺も一緒に行こうかな」
「なに言ってんですか。誰が店番するんだ」
「だーよーなー。あーあ」
想いが通じて知ったことだが、逸也はけっこうなヤキモチ焼きだった。めんどくさいなぁと思いつつ、それだけ自分に惚れてくれている嬉しさのほうが百倍大きい。
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