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「入れるんですか? 防犯システム」
「いやだわー、いくら営業マンが男前だからって、ねぇ。それなりのお値段だし考えちゃうわよねぇ」
「あら、でも薬局って劇薬も扱ってるんでしょう? この際だから安全のために、ねぇ」
「やだわ、勝田さんまで営業マンになっちゃって」
「男前じゃないけれど。あはは」
どうでもいい会話に爆笑するご婦人方に軽く会釈して、日向は自転車にまたがった。逸也と同等の男前営業マン……。浮かんだ顔に頭を振って勢いよく漕ぎだした。
以前住んでいた街からは遠く離れたこの場所だ。まさか居場所がバレたわけではないだろう。そう言い聞かせ、心に広がる不穏の雲を吹き飛ばすよう自転車を走らせる日向を、都心ナンバーの車から見つめる目があることに本人は気づいていなかった。
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