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 そんな日向の様子を、逸也は照れと取ったのかそれとも同性カップルという特殊さを隠したがってると思ったのか、会話を引き取って方向を変えてくれる。 「調理経験があるってことで、うちで住み込みしてもらってるんですよ。知り合いならお役にたちたいところですけど、あいにくと見ての通りの小さな店で、防犯システムを入れるような余裕はなくってね」 「いえいえ、今日は日向くんの元気な様子を知れたので良かったです。あ、一応パンフレット置いてきますね。もしご入り用があればいつでもご連絡ください。じゃあ日向くん、またね」  にこやかな表情を崩さずに、高見沢は帰っていった。「またね」という言葉が胃に重く沈んでいく。  姿が見えなくなってから、息を止めていたことに気づいて大きく吐き出した。誰もいないはずの上階から、ドンドコうるさい足音がする……と思ったら自分の鼓動で、ガチガチに固まった首と肩を動かすと頭痛がする。額に浮いた嫌な汗を、逸也に気づかれないようそっと拭った。 「さあて、閉めるかー」  いつもと変わらない逸也の声にほんの少し安堵して、日向は掃除の続きをノロノロと始めた。

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