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9―12
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両親のネグレクトで施設にやって来た三つ年上の高見沢は十歳という年のわりに大人びていて、施設のなかではどこか浮いた存在だった。
日向は日向で、生まれたときから施設育ちのベテランだというのに、あまり積極的にほかの子たちと接することもなく、だからなのかなんなのか、今となってはきっかけも忘れてしまったがごく自然に高見沢と一緒にいることが多くなっていった。
普段は冷たく整った顔が日向に向かってだけほっこりと綻ぶ様子や、みんなといると重たい口が日向にだけ軽やかに動くことが嬉しくて、「慧(けい)ちゃん、慧ちゃん」と金魚のなんとかのようについて回った幼い頃。
憧れのお兄ちゃんはやがて思春期になると恋の対象に変化した。家族を持てない性癖への絶望感と、叶わぬ相手への行き場のない想いは、高見沢が高校卒業と同時に施設を出たあとも、日向の心に溶けない残雪のようにこびりついていた。
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