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9―13
高見沢の卒業から四年後、日向も施設を出て働き始めてから丸一年が経とうとしてる頃だった。
ランチタイム、混雑する店のなかに高見沢を見つけたときの驚きと喜びは、こんなふうにささくれてしまった気持ちのなかでも忘れることができない。それが悔しい。けれど、あの頃の自分は、本当に高見沢が好きだった。
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風呂から上がって居間を覗くと、先に上がっていた逸也が缶ビールを開けるところだった。口をつけようとしていたそれをヒョイと取り上げて、日向はゴクゴクと半分ほど一気飲みする。
「あー、なんだよー日向。俺の風呂上がりの楽しみ取るなよー」
「だってイチさん、飲むとすぐ寝ちゃうから」
膨れっ面した恋人の膝にまたがってほっぺをムニムニっとつまむと、すかさず腰をガッチリと引き寄せられた。
「寝ちゃダメなのか?」
意地悪そうな口調と違って、目元が艶っぽく笑んでいる。
「一緒に寝るなら許します」
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