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「あーらぁ、ヒナちゃん、いらっしゃーい」
お昼過ぎから降りだした冷たい雨のせいか、スナックあかねにはボックス席で船を漕ぐ猫田ガラスの親父さんの姿しかない。カウンターに腰を下ろすと、あかねが熱いおしぼりを渡してくれる。
「イッちゃんは?」
「あ、今夜は商店街の会合で」
「あらそう。ダンナがいないって、寂しい夜ね」
ぐふふ、と含み笑いを送られて返答に困る。逸也は日向との関係を、あかねたちの前ではことさら隠す気がないのか、夫婦みたいに思われているのが恥ずかしい。
「ダンナじゃないし、別に寂しくなんてないですよっ。ナポリタンとビールください」
赤くなる頬を隠すようにカウンターに肘をつくと、出されたビールを一気に煽った。そんな日向に、つけまつ毛がバッサーと音をたてるようなウインクをよこしたあかねがフライパンに火を付けると、入れ替わるようにアヤカがカウンターに入ってきた。
「ママ、ごめんなさいね。あら、ヒナちゃん、いらっしゃい」
相変わらずゴージャスな巻き髪を揺らして、からになったグラスにビールをついでくれる。
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